「誰も信じてはならぬ」

…TPPだかFTAだか知らないけど、国際貿易絡みの多国間協定みたいなものが何故か停滞する世界経済を再生する切り札みたいに語られるのを見かけるたびに「比較優位」ってマジ誰も信じてないんだなぁ経団連の馬鹿とか一人残らず死ねばいいよねーとか実に微笑ましく思っていたのであるが、こともあろうにこれを自由貿易の「効用」と絡めて語る阿呆(本職含む)が大量に湧くのを見てさすがにうんざりしたので勢いちょっと書き散らしてみる気になったものの、オレ的には「In the long run we are all dead.」なわけであるし、実のところ今更どうでもよかったりもする。(どっちだ)


経済学の古典理論であり、かつ最も重要な発見であるこの「リカードの比較優位の原理」というものについてはウィキぺあたりでも読めば十分理解に足りると思うのであるが、ちなみにこれが何故経済学における最も重要な発見だとされているのかというと他にはまともに実証されたものが一つもないから(本当)。 

で、ここいらなんかにその信頼性についてのざっくりとした議論があるのだけども、これが「少なくとも」前提条件無しに「正しい」ことは、いちいちモデルを組むまでもなく保障されている。何故かっつーと、貿易(国際分業)とは常に財の等価交換(売った分だけ買わねばならない)でしかないから。
したがって貿易の効果は中立的、つまり貿易「には」メリットもデメリットもない*1

要するに「比較優位」ってのは(ここが一番直感的でない部分なのであろうが)、「どのような国との間においても貿易は可能である(売るものがある=比較優位)」ってことを、いささか遠まわしなやりかたで証明しているに過ぎないのであるが、この「どのような国」というところには当然「高関税国」も含むのであるから「比較優位」を自由貿易と絡めて語るのは奇妙なことでしかない*2んだけどね。
ちなみに場合によっては「自宅警備員」が比較優位になったりもするよ*3。何も生産してないのにね!不思議!

…ゆーてもこれは「理想的なモデル」の上での話であり、実のとこ、前もって「前提条件無し」に正しいとは書いたけど、貿易の効果が「総じて」中立的であるためには、資源制約の問題が技術的に解決可能で、かつ通貨金融政策の独立性とか人材の自由な移動に障害がないことなんかが完全に保障されていなければならない。
そうでなくとも、例えばEU*4とか何故か政府も中央銀行も仕事をしない日本みたいな国であっても、この先どんどん没落縮小均衡していけば物価賃金なんかもいずれ右肩上がりに上昇して、どんどん経済成長していくバラ色の未来が教科書的に約束されています。「中立的」だから。
いっそ死んじゃうのが比較優位。食料自給率なんかも一気に解決するので農業駄目になっても大丈夫。
「長期的」には。

*1:つーか貿易のメリット云々てのは突き詰めれば一部国内産業の「労働生産性」がどーたらって話でしかないんだがな。…で、それがいかにどーでもいいことであるかというのはいっこ前のエントリに書いた。

*2:つまり「関税」てのはあくまで内国問題。

*3:むかしヨーロッパにオランダという国があってだな。

*4:そんなにユーロ大事ならドイツとギリシャあたりから順に解体してったらいいよね。